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2012年10月の記事一覧

食育

 「食育」という言葉を近年よく耳にするが、「食育」とは新しい言葉でなく「体育」「知育」「才育」「徳育」と並ぶ五育として明治の終わりまではよく用いられていたそうだ。その語源を調べてみると、1898年には石塚左玄が「通俗食物療法」の中で「今日、学童を持つ人は、体育も知育も才育もすべて食育にあると認識すべき」と表現している。また、1903年に出版された村井弦斎の「食道楽」の中にも出てきており、それによると「小児には徳育よりも、知育よりも体育よりも食育が先。体育、徳育の根元も食育にある」と書いてある。このように「食育」は新語ではなく歴史的にも家庭の子育てとしつけの基本であったことがうかがえる。
 ところが1990年代に入るまでは、「食育」が大切であるという認識は、あまり強く持たれていなかったようだ。しかし1990年代後半になると、食は健康の源であり身体に必要で安全なものを選んで食べていくことは、生命のあり方に直結するという認識が高まり、食の安心や安全が求められる時代になってきた。こうした食意識の転換があった要因は、家庭での食事が健全なかたちを維持できなくなってきた状況、軽食の増加などによりそしゃく子供の咀嚼回数が著しく低下したこと、若年層の糖尿病予備軍化ともいえる状況、そしてこれらを招いた日本の食生活の問題が社会的に認識されるようになったためだ。
 このような状況を踏まえ、食生活の指針を示す国の対策として、2000年3月に「食生活指針」が制定された。内容は日本国民が食生活の改善に取り組めるように配慮した10項目からなり、バランスのとれた食事を楽しく味わえるような提言がなされている。さらに食育を推進すべく定められた法律として、2005年6月10日に成立した「食育基本法」がある。食を見直し、食に対する意識を高めようと市町村や教育機関などでは食育の取り組みが行われてきた。2002年8月に公布された「健康増進法」の中では、栄養や食品、歯の健康維持の条文があり健康増進の具体的な項目としての食、また担い手としての歯科の役割が規定されている。「食育」には、食材、食品安全、栄養、農水産業などとともに、食べることに関する咀嚼・嚥下などの機能が大変重要である。そのため、歯科保健・医療の観点から食育を積極的に考える必要性がある。
 食べ物と食べ方の知識と経験があって初めて、食が健全な心身の糧となり豊かな人間性を育むことができる。このような「食べ方」の食育については食育基本法に具体的な記述はほとんどないが、「食育」の重要性と多様性を鑑みて、口は食物をとる入り口の臓器としてかむ機能だけでなく、脳機能から運動機能まで全身に広い影響を及ぼしていることが分かってきた。
 よくかんで食べることは、唾液の分泌を促し、味を感じやすくし、満腹感も得られやすくなるため、肥満の解消や予防、生活習慣病の予防にもつながる。よくかんで食べる習慣を身につけ、それを維持するために自分の歯で何でもかめるようにしておくことが大切である。そのためには、むし歯や歯周病の予防・治療を心がけ、お口の健康を保つ必要がある。小児期からの健康づくりに「食べ方」を含めた健康な食習慣作りの推進と生涯にわたるライフサイクルに応じて健康診断や保健教育を介した「食べ方」の食育の推進が大切だ。
 ライフサイクルを意識して一人ひとりが豊かで健全な食生活を実践して、心豊かで健康な生涯を送ることができるように歯科関連領域では「食べ方」を主とした食育を積極的に推進する任を負うことが望まれる。