歯科コラム
むし歯じゃなくても歯が溶ける!?酸蝕症について
皆さんは酸蝕症をご存じですか?むし歯は主にプラーク(歯垢)によって酸が発生し歯を溶かしてしまう疾患です。しかし歯が溶ける疾患はむし歯だけではありません。飲食物、薬、胃液などに含まれる酸が直接、歯面に触れることで歯が溶けてしまうことがあります。それが酸蝕症です。酸蝕症の有病率は非常に高く、約30%といわれています。
ではどの程度の酸で歯は溶けてしまうのでしょうか。一般的に酸性度はpH(水素イオン指数)で表されます。数字が小さいほど強い酸性度を示し、歯の表面のエナメル質はpH5.5以下で脱灰(歯の成分が溶け出すこと)してしまいます。フッ化物を使用すると歯の表面にフルオロアパタイト(酸に強い結晶)が形成されるため、pH4.5まで耐えられるようになりますが、咬耗で露出した象牙質や歯肉退縮で露出した歯の根の臨界pHは6.0です。つまりフッ化物を使用することによりエナメル質の耐酸性が上がっても、エナメル質ではない部分は酸により溶けやすいということです。
酸性の飲食物はジュース、酢、アルコール、かんきつ類の果物など私たちの身近にあふれています。例えばコーラはpH2.7、レモンはpH2.3です。胃酸のpHが1~1.5程度であることを考えると、とても強い酸なので注意が必要です。
酸がもたらす影響は歯の脱灰だけではありません。酸性の飲食物を取り続けると、酸性の環境でも活動できる細菌が多く生き残り、細菌叢が変化することでむし歯になりやすくなります。これをマイクロバイアルシフトと呼びます。そのため、酸と糖の両方が含まれた飲食物を取り続けると、口腔内がむし歯になりやすい環境に変化してしまうことが懸念されます。
対策として酸性のものを飲食した後には、フッ化物配合洗口剤で洗口しましょう。あるいはチーズ、無糖ヨーグルト、牛乳などの乳製品を食べたり、酸の含まれていないノンシュガーのガムなどで唾液の流れを促したりするのも効果的です。いずれの方法も難しい場合には水で口をゆすぐのも良いでしょう。