歯科コラム
口腔内細菌と全身のつながり

口の中には7 0 0 種にもおよぶ細菌が複雑にバランスをとって定着しています。口の中にいる細菌が体内に侵入する経路として、咽頭を経由するものと直接血中に入るものが考えられます。従来は咽頭から胃、腸へと至っても、口腔内細菌は消化管内では発育できないため、問題にならないといわれていました。しかし、最近の研究では、腸へ移行した口腔内細菌は定着するとも考えられています。
また、舌の後ろには食物、唾液が咽頭から肺へ行かないよう気管にふたをする仕組みがありますが、加齢などによりそれがうまくいかなくなると、肺へ食物、唾液が流れ込み、肺炎を起こします。誤嚥性肺炎と呼ばれ、高齢者に多いのはこのためです。
さらに、口腔内細菌が歯と歯肉の間の隙間(歯周ポケット)から直接血中に入る場合もあります。歯周病により歯周ポケットの上皮が断裂を起こし、上皮下の組織が露出した状態になると、そこから細菌が組織に入り込み、血中に侵入します。血中に侵入した細菌は心臓を通り、全身に広がっていきます。生体防御機構が低下して感染しやすい状態にあると、侵入した細菌が心臓の内側表面を覆う膜(心内膜)に付着、増殖し、感染性心内膜炎となる可能性が高まります。
通常は生体防御反応によって細菌は排除されるので、体の防御機能がしっかりしていれば血中に細菌が入っても症状が出ることはありませんが、防御機能がうまく働かない場合には症状が出ます。口の中が不衛生だと細菌が繁殖しやすくなるため、むし歯や歯周病を引き起こすだけでなく、術後の感染症併発、糖尿病の悪化や妊娠糖尿病の誘発、早産や低体重児出産、アルツハイマー型の記憶障害、寝たきり、早死など全身の健康問題に関係することが分かってきています。
口の中が不衛生だと入院日数が延びるというデータもあります。これは、入院期間が延びる最大の要因が細菌による感染症だからです。入院前に専門的な口腔ケアを受けると、感染症の併発を抑えられ、入院日数が短くなることが明らかになっています。
そのため昨今、手術前には口腔ケアをしっかりと行う流れになってきています。口腔内細菌については、これまで口腔内の病気であるむし歯、歯周病ばかりが注目されていましたが、近年は特に歯周病を引き起こす細菌と全身疾患との関わりが注目されるようになり、研究が進んでいます。