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お口のシロアリ?根面う蝕

お口のシロアリ?根面う蝕

2017年のサンスターグループオーラルケアカンパニーの調査で、わが国の70歳代の65%、80歳代の70%が患っているとされ、今後さらに増加が見込まれる歯科疾患があります。それは根面う蝕(歯の根むし歯)です(参考:日本歯科保存学会「う蝕治療ガイドライン第三版」)。

12歳児1人当たりの平均むし歯数は約1本と明らかな減少傾向で、小児のむし歯予防は順調に進んでいる一方、それ以降の年代(特に45歳以上)では、いまだに増加しているという現状があります。

歯茎の隙間が広がり、食べ物が詰まりやすくなったり、歯が長く見えるようになったりするのは、歯茎が下がり歯の根っこが露出している時に発生する症状の一つです。そのように露出した根っこにできるむし歯を根面う蝕と呼び、歯冠(歯の頭部分)にできる一般的なむし歯とは異なる性質を持ちます。

根っこは歯冠と異なり、よろいのように強固なエナメル質では覆われておらず、脆弱じゃくで極めて薄いセメント質があるのみで、すぐに象牙質がむき出しになります。そのためエナメル質よりも弱い酸でも溶けてしまう上に歯し垢こうもたまりやすく、また歯ブラシも行き届きにくいため、露出した根っこはさまざまなリスクが高いと言えます。

加齢に伴い歯の神経は小さく細くなり痛みを感じにくくなることもあるため、罹患に気が付きにくいことや、コラーゲンを多く含む根っこ面は、溶けだしても穴が開かずに進行することがあり、発見が遅れることも根面う蝕の特徴です。気が付いた時にはスポンジのように軟らかく深くなっていたり、根っこを一周するようなむし歯になっていることもあり、咀嚼や歯ぎしりなどの外力によって脆弱となり歯が折れてしまうこともあります。

高齢者が根面う蝕に罹患理由として、65歳以上の90%は露出歯根面を有していることの他に、唾液の量の減少や、義歯の装着、セルフケアの困難さも挙げられます。

根面う蝕は、まるで家屋の柱をむしばむシロアリのようで、治す立場から見ても、病変の大きさや深さの判別が困難であり、治療も容易ではありません。

そんな根面う蝕は、予防することが理想です。そこで問題です。

質問:最も効果的なう蝕(むし歯)予防法はどれか?

a:フッ化物の応用 b:毎食後の歯みがき c:甘味制限 d:規則正しい生活 e:殺菌消毒剤うがい

これは20年程度前の歯科医師国家試験の問題です。正解はa:フッ化物の応用で、その有効性の信用度は高く、小学校ではフッ化物洗口を取り入れているところも少なくないようです。根面う蝕にもフッ化物の応用は推奨されており、いずれ介護現場においては、高濃度フッ素配合歯みがき剤とフッ化物洗口の併用はごく普通のことになると思います。フッ化物は薬品ですので、適した使用方法はかかりつけの歯科医院ににご相談ください。